小話37
↑のドランク視点こぼれ話。
気怠い体に反して、窓から差し込む
日差しは輝いていた。
瞳に当たる光が眩しくて思わず唸り声をあげると、
頭に鈍器で殴られたような衝撃が襲う。
ひっきりなしに訪れる衝撃に耐えながら
ベッドを這いずり、横に置いていたかばんに
手を突っ込みガサゴソと漁る。
目的のものを握りしめて口まで運び、
思い切り飲み干すと、強烈な苦みが
口の中に広がってから胃へと滑り落ちていった。
吐き出しそうになる衝動をどうにか抑えて、
ごろりと仰向けになりゆっくりと息を吐く。
爽やかな青空が広がる良き日に、
どんよりとしている体。
真反対過ぎて自分の事なのに笑ってしまいそうだ。
お酒は程々に。
全身を二日酔いの症状が襲っている
僕の脳裏に浮かんだ言葉がこだましている。
そう分かっていても、昨夜は《飲む》
しか選択肢は存在しなかった。
だって、スツルム殿からのお誘いだよ?
感情に任せて楽しくってたくさん飲んじゃうよね!
美味しいご飯に、気持ちよくしてくれるお酒、
スツルム殿は相変わらず無表情で
麦酒を飲んでいたけれど、
止まるところを知らない僕のトーク。
昨夜の愉快な記憶が頭を駆け巡って、
元気なら鼻歌でも歌えそうなくらいだった。
彼女の目的は何となくわかっていた。
完璧に罠だった。
鬱陶しいと思っている自分を誘うはずがない。
それに《乗らない》という選択肢も
僕の中には存在した。
スツルム殿がこれから《すること》を、
前々から感じ取っていたから、
ついに来たかと身震いがした。
普段は姿を見れば無視、
名前を呼ぶと眉を顰める関係だ。
嫌がられても、ぞんざいに扱われても、
僕が去ることはない。
『スツルム殿とコンビを組む』
了承はされないとわかっていても、
僕が口にした言葉だ。
《許可》はもらえなくても
《事実》にしてしまえばいい。
周りがそう噂すれば、それは
《真実》となってしまうだろう。
最低な言い分だけれど、それだけが
僕の原動力となって突き動かしていた。
それが行き過ぎて、スツルム殿は
最終手段に出たのだろう。
僕を引き離すために、彼女は今
とある仕事に向かっている。
いつかは強行突破で行方を眩ましてしまう
可能性があるとは考えていたから、
準備と心構えをしていたことが功を奏した。
そのための情報はすこーしだけお財布に
痛かったけれど、僕はそれでも、
スツルム殿の傍にいることを諦められなかった。
彼女の役に立つという自負だけは、
なぜか自分の中に存在していて、
一生懸命売り込み、甲斐甲斐しく立ち回り
ながら数カ月が経過している。
あともう一押しじゃないかな~……って
思っているから今更引けるわけもない。
……それにしても、スツルム殿ってば
詰めが甘いよね。
酔いつぶれた奴なんてそこら辺に
捨て置けばいいのに、律義に部屋の入口までは
運んでくれたのをうっすら覚えている。
そんなことされたら、気持ちなんて
離れるわけがない。
別に捨てられても諦める気は微塵も起きないから、
どっちみち意味はないんだけれど!
彼女のことを知れば知るほど嬉しくて、
もっと知りたくなっていく。
踏み入れてはいけない線引きは弁えつつ、
一つ一つの情報を脳裏に焼き付けていた。
そんな彼女は既にこの地にいない。
追いつくために、数時間後には
ここを旅立たなければいけない。
スツルム殿はわざわざ遠回りしてギリギリに
たどり着くようにしているらしい。
だから時間に余裕がありそうだと踏んでいたが、
生憎乗り換えの船が上手く行かず、
僕もそこまで余裕はなさそうだ。
準備を整えてから船に乗るまであまり猶予はない。
けれど、もう少しだけ待ってくれと
体が悲鳴を上げていた。
用意していた薬が効くのはもう少し後だろう。
少しでも元気の出るものを……と考えた僕が
思い浮かべたのは、スツルム殿のことだ。
彼女と合流するのが今から楽しみで仕方がない。
巻いたと思ってる自分を見た時、
彼女はどんな顔をするだろう。
驚き?怒り?それとも無表情なままかな?
想像するだけで頭の中が華やいでいく。
にんまりと弧を描く口を思わず手で覆い隠すと、
静かな部屋に響いたのは柔らかい笑い声だった。
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