小話24

スツドラプチのワンライ投稿作
とても楽しいオンラインイベントだったので
当社比甘めです。

「ねぇねぇスツルム殿、ゲームしない?」

静まり返った空気を僕の明るい声が壊した。
率直な問いかけに、彼女は眉間に
皺を寄せて反応する。
視線の先にあった雲が、後ろへと流れて行く。

移動中の騎空挺は、退屈でいっぱいだ。
滞在していた島で購入した雑誌には、
あらかた目を通してしまった。
普段みたいに僕が一人でペラペラとお喋りを
してもいいのだけれど、今日はなんだか
スツルム殿に構ってほしい気分だった。

「ゲーム?」
「代り映えのしない景色眺めてたって面白くないでしょ~?だったら暇つぶしに遊ぼうよ」
「……別にいいが、トランプ以外にしろ」

僕の提案に珍しく載ってきてくれたところを察するに、彼女も同じ気持ちだったと思われる。
《トランプ以外で》というのは、
前にイカサマして僕が勝ったからだろう。
する僕も悪いけど、あんなあからさまなトリックに気が付かなかったスツルム殿だっていけないのだ。
彼女は僕が騙ることを警戒しているはずだ。
それならば、僕の目の前に書かれているゲームには興じてもらえそうな気がする。

「じゃあさ、お互いのクイズを出し合わない?」
「……はぁ?」
「この本に載ってたんだよね~」

表紙を見せると眉間の皺がまた一つ増える。
先程まで開いていた雑誌は、
今流行りのティーン誌だ。
年齢的に僕が手にしているのはおかしいと解ってはいるが、そんな顔することないだろう。
これも情報収集の一環だ。
人探しの依頼などの時に、若い子にいきなり
話しかけたら不審者だと思われる。
だからこうやって話が合わせられるように
頑張っている僕に対して冷たくない?
って言いたくなる気持ちを抑えた。

「人と仲良くなるゲームっていうのが、特集で掲載されてるんだよね~」
「ふぅん……」

僕の思惑を知ってか知らずか、スツルム殿は
怪訝そうな目でこちらを見た。

嘘、嘘だった。
仲良くなるゲームなんて載っていない。
載っているのは『恋人との暇つぶしにおすすめな過ごし方』だ。
表紙をじっくり見れば明らかだが、
興味のないスツルム殿はそんなことしないだろう。

恋人とのと銘打っているだけあって、スキンシップの多いものがラインナップされている中で、
僕らができそうなものはこれくらいだった。
書いてある通りの関係なのに、何とも悲しいものだ。

「僕とスツルム殿はすでに仲良しさんだけどさ~もっと親睦深めていこうよ」
「誰と誰が仲良しだって?」
「まぁまぁ細かいことは置いといて。何でもいいからクイズ出してよスツルム殿」
「…………あたしは今何を考えているか」

自分で制限を課したからか、スツルム殿は意外にも僕に付き合ってくれる。
彼女の口から出た問いかけに僕は悩むふりをする。
答えはすぐに思いついたけれど、ここでスパッと答えたら、そこで終了にされかねない。

「ん~……《面倒》、じゃない?」
「なんだ解ってるのか」

頭に浮かんでいた答えは、やはり正解だったようだ。
顔に堂々と書いてあれば、普段空気の読まない僕だってわかる。

「じゃあ次は僕ね」

でもそんなことくらいでめげる性格じゃない。
せめて一往復くらいはさせてもらおう。
とは言ったものの、なんと質問しようか。
スツルム殿が興味を持ってくれそうな、それでいて話題を続けられそうな問題にしないといけない。
折角気が乗ってくれているこのチャンスを逃さないために僕は必死だった。
だってスツルム殿ってば普段ぜーんぜん構ってくれないんだもん。

「今何を食べたいでしょうか!」
「わかるわけないだろ」
「え~!ちょっとくらい考えてよぉ!」

間髪を容れずに返ってきた答えに、
僕は負けじと応戦する。
食事の話題ならこの後どうする?とか
前に食べたハンバーグ美味しかったよね!
とかいくらでも話せるだろう。

「もっと簡単なのにしろ」
「う~ん……。あっ!じゃあ僕の好きなものは?」

譲歩した結果はかなりわかりやすいものを選んだはずだ。
目線を宙に浮かせて考え始めたスツルム殿は、
結論が出たのかこちらをまっすぐに見て僕に答えを投げてきた。

「………………あたし」
「…………ん?」

手元に来た答えの、意図が分からずにその場で固まってしまう。
一瞬にして耳が悪くなってしまったのだろうか。
《あたし》、とスツルム殿の口から聞こえた気がする。
その言葉の意味が解らない僕じゃないけれど
、スツルム殿の口から出てくると思わなかった。
僕が黙っていると、少し困ったような表情でスツルム殿は言葉を続けた。

「いや、だから《あたし》……は違うのか?」

いやそれものっていうか人じゃないかな。

そんな言葉は、決して口に出せなかった。
だって好きだもん、僕。
プロフィールに載せてもいいくらいに好きだもん。
いつもあれだけ構ってほしいと纏わりついていればわかるだろうと思うが、相手はスツルム殿だ。
僕の好きがどういう意味で、
どういう熱を持っているか、
身をもってわかってはいるだろうが、
あの鈍感なスツルム殿だ。
僕の告白を一度スルーしたことは記憶の奥底に置いてあるが、今は関係ないから空中へ飛ばそう。

「……違わない、けど……いや、《遺跡》とか《無駄な会話》とか言われるかと思ってたから……ははっ……」
「……………っ⁉」

どんなに取り繕っても、作り笑いがうまくいかない。
嬉しさが頂点に達して、口角が上がりすぎてしまう。
だって、スツルム殿が一番初めに思い浮かぶ
《僕の好きなもの》が自分、か……。
そんなの嬉しい以外の感情を抱けなくなってしまう。
そのことをやっと理解したのか、スツルム殿の顔が、彼女の放つ炎のように赤く染まった。

「そ、そっかそっか流石だな~スツルム殿!僕のことよくわかってっ……いでぇ!」
「今すぐに記憶から消せっ‼」
「無理だよー!僕の記憶の宝箱に入れちゃったからもう出ませんー!痛っ‼」

狭い部屋の中に逃げ場はない。
彼女の照れ隠しを甘んじて受ける代わりに、
僕の記憶だけは死守するしかない。
……いや本当に消せるわけないし。

僕と彼女の攻防戦は、船が目的地に到着するまで繰り広げ続けた———。

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