小話16
ドランクが幸せについて考えてる話。
幸せってなんだろう、とふと考える時がある。
仕事が上手くいったとか、誰かに褒められたとか、ギャンブルで大儲けしたからなんて人もいそうだね。
美味しいものを食べたり、なかなかお目にかかれない武器をゲットしたり、
人それぞれの形を持っている《それ》を、自分の中のアルバムを捲って考える時がある。
そして、辿り着く答えはいつも一緒だ。
僕の幸せは――スツルム殿が傍にいてくれる事だなぁって。
それの正解を確認するために思考巡りを何回繰り返したかわからない。
だって何度でも思い浮かべて、何度でも確認したい事なんだから、仕方がないんじゃない?
ほら今だってその感情を僕は胸に感じてる。
僕の目の前で眠そうにうつらうつらと眠りの底に引き込前れそうになっている、その姿が愛おしくならないわけがないのだ。
眠いならすぐに寝てしまえばいいというのに、僕に寝顔を見られたくないと思っているスツルム殿は、無駄な抵抗を少しばかりする。
何度も見られてきた姿なのに、こういうことに慣れないところは彼女らしい。
微かに動く頭が僕の腕から落ちそうになるのを静かに見守っていると、思わず口角が上がってしまった。
そんな些細な行動すら、幸せを感じる体なんだなぁ、僕は。
「……何笑ってるんだ」
思わず漏れた微かな笑い声を、こんな状態でも拾い上げるその様は、やっぱり傭兵だ。
深い眠りに入ってしまったところを襲われたなんて事態が起こったら、今後の仕事に係わってくる。
だから物音にも敏感だし、気配を感じると目が冴えてしまうだろう。
でも今日は、風の音すら聞こえない穏やかな夜だ。
このままその穏やかさに身を任せてしまえばいいのに。
そう思いながら、僕はお得意の口を開いていく。
「え~スツルム殿が可愛いくて幸せだなぁと思って」
「…お前の幸せ、安っぽいな」
「可愛いってところは否定しないんだね~」
本人からの言葉に傷つきながらも茶化してかえせば、眠そうな目の間に皺が刻まれた。
不機嫌そうな表情を見せてはいるが、ほのかに赤くなる頬が、言葉にされない答えを教えてくれる。
「人のことなんか見てないでさっさと寝ろ…」
「はーい」
そう嫌がるようなそぶりを見せつつも向かい合って寝てくれるところを見ると、またほわほわとした暖か感情に包まれる。なんだかんだ僕に甘いよねスツルム殿って。
結局スツルム殿が睡魔に負けて瞼が閉じられ、数秒後には規則正しい寝息が聞こえてきた。
起こさないようにそっと腕を引き寄せて、温もりを抱きながら僕も夢の世界へと旅立つ。
あぁ、向こうでもスツルム殿が出てきてくれたらいいのになぁ。
でも、一日の終わりを、こんな気持ちで締めくくれるなんて、―――僕は本当に幸せ者だ。
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