小話10
クリスマスとドラスツ(+オーキス)
「はぁ~いいよね~子供は何にもしなくても欲しいものが貰えて」
「…なんだいきなり」
吐いた息が白く染まるような寒い寒い冬の夜。
沢山の子供たちがわくわくしながら眠る夜。
そんな夜にドランクが呟いた言葉に、スツルムはいつもみたいな冷たい目線を浴びせていた。
きっとまた変なことを言いだしたと思っているだろうその目は、
外の気温を差がないくらいに冷え込んでいた。
窓の外を眺めていたドランクは、そんなこと気にせず、無邪気な子供のように言葉を続けた。
「だって~大人になったら、なかなかプレゼントなんて貰えませんよ?」
「子供だっていい子にしていないと貰えないだろ」
はぁ、と一つため息を吐いて机に置いてあるグラスに手をかけて、ぐいっと飲み干したスツルムは、
呆れてはいる様子だけれど、その目はなぜだか穏やかさを纏っている。
窓に映し出されたその姿が見えているであろうドランクも、目を細めて愛おしそうに眺めていた。
いつもの戦闘で見せる様子とは違う、ゆったりとした雰囲気。穏やかに流れる時間。
それは聖夜が作り出した魔法みたいな時間だけれど、ずっと続けばいいのにという
感想すら抱いてしまうほどだった。
その空気を動かしたのはドランクだった。
外を眺めるのに飽きたのか、くるりと踵を返してそのままソファまで進むと、
ぽすんっとスツルムの隣に収まった。
無言でワインの瓶を手に取ると、先程空になったばかりのグラスに注いでいく。
「スツルム殿はサンタさんに来てほしくていい子にしていた感じですか?」
「…さぁな。昔のこと過ぎて忘れた。お前こそ覚えてるのか?」
「どうだったかなぁ~?ま、昔より今のほうが欲しがりさんかも!」
「…その年でなにをねだろうっていうんだお前…」
「えっ…スツルム殿が乗ってくれるなんて嬉しい!」
「別に聞くだけならタダだからな」
そう言うとスツルムはまたワインを飲み干していく。
お酒の酔いがあるのかもしれない、とドランクも感じているようで、
空になった傍から間髪開けずにどんどん注いでいた。
予想外の展開に、ドランクは明らかに目が泳いでいて、
いつも飄々としている彼からは想像できないくらいだった。
何をそんなに焦る必要があるのか。そんな疑問は一瞬にして消え去っていった。
「え~…ん~……今一番欲しいのはぁ…スツルム殿の…左手の薬指が、欲しいかなぁって…」
「はぁ?なんでそんな………」
不思議そうなスツルムをよそに、ドランクの手は先程の焦りようが
嘘みたいに自然に動いて目的地にたどり着く。
左手の薬指の付け根を、優しい手つきで撫でまわす指は力強さも感じる。
確固たる意志がそこにはあって、思わず息を飲んでしまうほどだった。
「……っお前な!」
「っ…だって、言うだけならタダじゃないですか!」
そんな子供みたいな主張をするドランクに、スツルムはいつもみたいな視線を向けられないようだった。
バツが悪そうに目線をそらして、今度はスツルムが焦り始める。
でも無茶を言ったドランク本人も、落ち着かない様子でまた視線を泳がせている。
もどかしいこの時間も、きっと聖夜が作り出した魔法なのかもしれない。
それを崩したのは、今度はスツルムだった。
「……だけで………のか」
絞り出された声は、彼女の体に比例するかのように小さかった。
聞こえないドランクは、それに合わせるかのように小さく『なに?』とだけ問いかけた。
恐る恐る目線を上げたスツルムの頬が赤いのは、お酒のせいなのか、それとも別の理由なのか。
「……薬指、だけで、満足するのか」
―――それは、いったいどういう事だろう?
イエスでもノーでもないその返答は……ううん、どっちとは言っていないけれど、それは、確実に――。
「ス、スツルム殿それって…」
「……や、やっぱり忘れろ!!」
言葉の意味の答えを出し終わる前に、ドランクが問いかけ終わる間もなく、
魔法の時間は解けてしまった。
さっきまでの雰囲気はどこへ行ってしまったのか。
慌しく撤回して立ち上がるスツルムを、ドランクは必死で止めている。
「えー!!待って待ってスツルム殿!ここまで期待させておいて『はいおやすみ~』はないでしょ!?」
「うるさい!あたしはもう寝る!」
あっ…と思った時には遅すぎて、がちゃりと無情にも扉は開いてしまって、スツルムと目が合った。
合ったどころではなく、見つかってしまった、のほうが正しいと思う。
魔法みたいな空気は、一瞬にして氷漬けみたいな冷たい空気になっていく。
きっと今ここは、外よりも冷たい空気で包まれている。そう感じざるを得なかった。
「ごめん、なさい」
「お前っ…いつから…」
「スツルムと、ドランクが…仲良しなのが嬉しくて…」
「仲良しって…………っ~~~~~~!!!」
声にならないスツルムの叫びに、心の中でもう一度ごめんなさいをする。
その憤りに巻き込まれて、いつもみたいに刺されてしまったドランクにも、再度ごめんなさいをした。
でも、もう少し、もう少しだけあの魔法みたいな時間を味わっていたかった。
「(……だからドランク、頑張って)」
―――いつも、いつまでも、あの空気に包まれている二人の時間が訪れますように。
もしかしたら、いい子にすれば、サンタさんがプレゼントしてくれるかな?
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