小話6
【ドランクに言ってほしかった言葉】『僕より先に死なないでね』
※出会いねつ造。公式のプロフィール見て妄想。
「スツルム殿は僕より先に死なないでね」
―――なんて重い一言なんだろうか。
自分より先に死なないでくれ、だなんて確定のできない未来の話を、彼女はどういう気持ちで聞いてくれているのだろう。
でも僕は見たくないのだ。彼女の真っ赤なその命の灯が消えてしまうところになんて絶対、見たくない。
大切な人が僕の側からいなくなってしまう事を経験してしまうくらいなら、僕が先にこの世からいなくなりたい。
だから、命の危険に晒されてしまったその時には、僕は自分の事よりスツルム殿を助ける道を選ぶだろう。
まぁそれはスツルム殿も同じじゃないかな。僕を盾にして生き延びてくれるだろう。その方が嬉しい。彼女の生きた道の1つになれるんだ。最後に見る景色もきっとスツルム殿で終われるなんて…とびきり素晴らしい人生だろう。
裏切られたり、嘘を吐かれたり、裏切ったり、嘘を吐いたり。人から見たらいい人生ではないのかもしれないけれど、スツルム殿に出会えたというだけで、僕の人生はプラス100点されてもいいくらいだろう。いや…出会えただけじゃなく、同じ時を何年も過ごせたというだけでもうプラス100点、いや1000点くらいの要素だ。
それほどまでに、彼女は僕の救いなのだ。
本当の名前も、過去も、無理に聞き出してこようとしない、だけれどいつも隣にいてくれる大切な人。そんな人に巡り合えただけで、僕の人生は薔薇色だったと言えるだろう。
それなのに、なぜ僕はあんな重い一言をこんな軽い一言で切り捨てられてしまったんだろう。
「無理だろう」
バッサリと切り捨てるように返された一言は想定外で、思わず固まってしまう。いつも無表情なスツルム殿の顔は僕にそう言われても驚いた様子も、呆れたような様子もなく、本当にいつも通りの様子で返してきた。
ちょっとくらいは、「縁起でもないことを言うな」とか咎めてくれたら嬉しいな~とは思っていたが、『無理』の一言は予想外だ。
「いやいや~…無理ではないでしょ?スツルム殿、死にたがりさんでしたっけ?」
「はぁ?そんなわけないだろ」
呆れた声を上げるスツルム殿に、あっ…そこは怒るんだ…と率直な感想が飛び出す。
じゃあなんで、僕よりも生きようとしてくれないのだろう。僕より先に死なないで欲しいなんて簡単なお願いを叶えてもらえない理由がわからない。
死が二人を分けてしまっても、スツルム殿には自分の人生を全うしてほしい。僕の事なんか気にしなくていいんだ。
そんな困惑している僕をよそに、スツルム殿は気にした様子もなく話を続けてきた。
「…あたしはお前の護衛だからな。何かあったら一応、守ってやるつもりでいる。だから…あたしが死ぬ時はお前を守った時だ」
その言葉に、出会った頃を思い出してしまう。
そうだった…初めに出会った頃は依頼主と傭兵の関係だった。
その時の仕事っぷりに惚れて、相棒となって。そんな間柄になったあとの方が長いから、スツルム殿はとっくの昔に忘れているもんだと思っていた。
いつもは鬱陶しそうにしている彼女がそんなこと思っているなんて考えもしなかった。今はもう、対等な関係なのにそういうところは真面目なんだなぁ。そういうところにも惹かれている自分としては、何とも言えなくなってしまう。
むしろ意識していないと、口元がにやけてしまいそうだ。
「…………おい何か言え。反応がないと困るだろ」
「スツルム殿こそ自分で言ったのに照れないでよ~いったい!」
「…にやにやするな」
―――彼女の頑なな意思を作ってしまったのは自分か。
それならもう仕方ない。彼女と最後まで走り抜けよう。
そして、願わくは…
「(一分一秒でも長く一緒にいて……最後にスツルム殿と一緒に死ねたら…最高の人生だなぁ)」
そんな最高のハッピーエンドに向けて、少しでも長く生き続けなければ。
死が二人を分かってしまっても、一緒にいられるように願いを込めながら。
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