小話2

【診断メーカーのお題をお借りして書きました】

『一緒じゃなきゃ、いやだ』



煌めくシャンデリアが眩しくて、目を細めた。

眩しいのはシャンデリアだけじゃない。ここを流れている雰囲気も、飛び交う政治や外交の話しをしている老齢の男性たちの声も、その男性の奥様方たちの品のある笑い声も、いつもの日常とかけ離れていてむずがゆさを感じる。それはきっと、昔の事を思い出してしまっているということもあるだろう。

逃げてしまいたいなという気持ちもあるけれど、この場を今すぐに離れるのも惜しいだろう。

もしかしたら新しい仕事のチャンスが巡ってくるかもしれないし、何か有益な情報を掴んだりできるかもしれない。

折角御呼ばれしたのだから、有効活用しないともったいない。なんて考えていると、見知ったご婦人と目が合ってお淑やかに手を振られる。

どうせ自分の事を知っている人は、あのご婦人と、隣でいつも以上に寡黙な相方だけだろう。もやもやする気持ちを押し流すように、右手に持っていたシャンパンを飲みほした。

今回の仕事は先程のご婦人をこの会場まで無事に送り届けるという至極簡単なものだった。道中で元恋人を名乗る人物とお付きの登場なんて演出もあったが、僕とスツルム殿の前ではあっという間に片付いてしまった。酷く恨んでいたようだけれど何があったかは聞かないのが仕事の上での鉄則だ。

そのまま貰いすぎではないかと思うくらいの依頼料を受け取って帰ろうと思ったら、ご参加されて行きませんか?なんてお誘いが。

スツルム殿は絶対に苦手だろうし断ろうと思ったけれど、報酬を弾んでもらった手前断りづらくて、押し切られてしまった。…まぁ着飾ったスツルム殿が見てみたい、っていう下心があったことは否定しないけれど。

隣に立つスツルム殿は、髪色よりもっと真紅なドレスを身に纏って、いつもよりおしとやかな女性に見える。

普段身に付けている剣を置いて、代わりの武器は彼女の豊満な……といいたいところだけれど命が惜しいのでやめておく。

言ったところでこんなところで剣は振るえないだろうから刺される心配はないが、手を出す可能性がゼロではない事を考えるとわざわざ怒らせることもない。それに、口だけなら痴話喧嘩位に思われるだろうが、暴力とまでなると悪目立ちが過ぎる。

黙々とお肉を口に運んでいるところを見ると、誘われた時の不機嫌さは一旦どこかへ行ったようだ。食べ方に上品さが足りないけれど、そこが彼女の良いところではあるので気にしない。きっと隅っこにいる僕たちの事なんて気にする人もいないだろう。

このままスツルム殿には楽しんでもらって、僕は僕で行動するのが良いかもしれない。


「スツルム殿、僕ちょっと席外しますね」

「?…戻ってくる時にあそこの肉の塊取って来てくれ」

「いやいやあれ全部は無理でしょ……あとね、暫くは戻らないと思うからそれは自分で取ってきてほしいなぁ」

「…どこまで行くつもりなんだお前は」

「ちょ~っと色々とお話してこようかなって。次の仕事に繋がるチャンスとか何かあるかもしれないですし?こういうところで話聞くことなんてないですからね~」


それじゃ…と歩みを進めようとする僕は、引っ張られる感覚に足を止める。

スツルム殿がフォークを持ったまま僕のジャケットの裾を掴んでいる。

なぜ止められたのか分からない僕は、目をぱちくりとさせるばかりだった。


「スツルム殿?」

「……………一緒じゃなきゃ、いやだ」


絞りだされた声は不満げで。目線は身長差のせいで上目遣いになっていて拗ねたような表情を浮かべている。

まさかスツルム殿がこんな行動を取ると思わなかった。

いつもそっけないスツルム殿が、僕と一緒じゃなきゃいやだと。

あんなにうざったそうにしているスツルム殿が!僕と一緒じゃなきゃいやだと!!

なぜここに録音機器が存在しないのだろうかと後悔するほど嬉しい一言に、顔がにやけてしまいそうになる。

人生の宝物に出来そうな一言だ…『一緒じゃなきゃ、いやだ』。

スツルム殿は自分の発言が色々と足りないことに気が付いたのか、ばつが悪そうに続けた。


「…一人でいて変な輩に絡まれるくらいなら……お前といる」

「(あ~……)」


今彼女の身を守る武器は、僕か。

そこまで頼られてしまうと、自分で考えたビジョンを捨てて今日はお腹を満たすことを優先するしかない。

煌びやかな世界の住人から、多額の報酬をもらえるかもしれないと思ったけれど、今はスツルム殿の隣に立っていることの方が大事だ。…いや、それは今に限らずいつでも大事なことだけれど。


「じゃあ…今日は僕もご飯を楽しんじゃおっかな~!ついでにお酒も頂戴してきますね~」

「…ドランク、あれも食べたい」

「はいは~いちょっと待っててね、スツルム殿。ちゃぁんと戻ってきますからね~」


少しだけからかうように告げて、さっとその場を離れる。

さてさて、僕はどれを食べようか。自身の好みで選んでしまってもいいけれど、スツルム殿が好きそうなものをとりあえず手元に置いておこうかな。

さっき貰った一言で、僕は正直お腹がいっぱいだ。だから彼女を満たすために行動しよう。スツルム殿に、また求めてもらえるように。

そんな優しさとは裏腹に、足を踏まれる未来を僕はまだ知らない。

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