ロマンスはあなたと二人で
両片想いドラ→→→→⇐スツ。
視点がドランク→スツルム殿→ドランク→ドランクと変わります。
前半部分は独白的なものです。
ドランクは好きの回数が多くて、スツルム殿は一回の好きが重い
って感じで書きました(語彙力のなさ)。
苦く 重たい愛ならば 良かったのに
そんな愛なら きっと君の心に刻み込めるものになっただろうに
『女の子は 柔らかくて 可憐で 守らなくてはいけないもの』
それは、そんな僕の幻想が一気に吹っ飛ぶような出会いだった。
不愛想で、無反応。柔らかいっていうのはあっているとは思うけど、力の差は歴然で確実に向こうの方が上。
戦う女性というものは何人も見てはきていたが、ここまでストイックに剣術を極めようとしている人はもしかしたら初めてかもしれない。
まぁでも、まずまず自分はそこまで歳を重ねていない。若輩者の部類に入るだろう。
そんなまだ短い人生での価値観なんて、吹っ飛ばされて当たり前だ。
それにしても、衝撃的な出会いだったことに違いはない。
そうだ、スツルム殿に出会ってから僕自身の人生は変わったと言っても過言ではない。
いや、明確に何が変わったと聞かれると困るのだけど、それでも出会う前の人生と比べると、色づいたものになったことは間違いない。
なんて大げさな、と思うかもしれないけれど、おばあちゃんがいなくなったあの日から、心のどこかがポッカリと空いてしまっていたのも事実だ。
だから、その隙間を埋めるように、彼女の髪色のような赤い気持ちが生まれてしまったんだろうなぁ。
いやいやでもね、初めはそんな気なかったよ?
だって一緒に仕事するだけかもしれないのに、そんな気持ち抱いてどうするのさ。
でもさ、ふとしたところで大打撃を受ける事ってあるじゃない?
詳しくは僕とスツルム殿だけの思い出にしたいから言わないけど、雷が落ちるとはあのことだなぁと今なら思う。
呆れたように、眉を下げながら軽く笑ったスツルム殿の可愛いこと可愛いこと。
感じた直後はさすがの僕でもそりゃ戸惑った。
………ん?今、自分は何と思った?可愛い?スツルム殿を?
いや、女の子はすべからく可愛いよね~なぁんて茶化しながらも心臓は確実に高鳴っていた。
感じたものは、そういう大雑把な感情じゃなった。心の奥底があったかくなるっていうか
……えっ、僕、もしかして、マジで、いやいや、そんな、まっさか…。
相手は堅物の仕事仲間。そういう気には絶対になってくれないであろう手ごわさだ。
その場ではなんでもないようにふるまったけれど、一度抱いた気持ちは何度でもひょっこりと出てしまうものだ。
疲れて穏やかそうに眠っている姿とか。
からかった後に冷たい目線を向けてくる姿とか。
剣の研ぎがうまくいって、心なしか嬉しそうな姿とか。
目に留まり始めると本当にキリが無くて、見れば見るほど些細な仕草すら可愛いなって思うようになってしまった。
だってしょうがないではないか。
仕事中はずっと一緒だし、今では長期のオフでもない限り僕らは一緒に行動をする。
色んな時間を過ごしていくうちに、スツルム殿の素敵な所を、一つまた一つと見つけてしまうのは、必然と言っても過言じゃないだろう。
あーまるで恋する乙女みたいだな。
「(今日も僕の相棒が可愛い…)」
僕の、だなんてつけていると知ったらきっと怒るだろうなぁ。でも、そんな姿も可愛いのだ。
構って欲しくて、ついついからかってしまう。
怒ってる姿も、呆れてる姿も、どんな姿だって簡単に好きだとおもってしまう。
自分で言うのは可笑しいけれど、なんとも軽い男だな、と頭を抱えるレベルだ。
こんな軽々しく愛を伝えたところで、彼女は受け入れてくれないだろう。
そんなこと誰にでも言う。そう思われて終わり。
もっともっと、スツルム殿の心に留まれるような、そんな言葉で気持ちを伝えたいのにままならない。
口先だけは得意だと思っていたのに、なんで彼女に対してだとこんなにももたついてしまうのだろう。
「(好きだよ、スツルム殿)」
この恋がもっともっと簡単に、胸の奥深くまで届けばいいのに。
そんな途方もない方法を探しながら、また今日も君の隣に立ち続ける。
甘く 軽やかな恋ならば 良かったのに
そんな恋なら きっとお前の心にも入りやすかっただろうに
『自分自身は 恋 というものに 向いていない』
それが昔からの自己評価だった。
着飾ることなど知らない。
化粧なんて面倒。
誰がカッコいいとか、誰が優しいとか興味ない。
今思えば幼少時代からそうだった気がする。
性別に反して、なんと可愛げのない子供だったのだろう。
そんな自分が、恋という面倒な感情を、この年齢になって味わうと思わなかった。
―――年齢がとかそれ以前に、まずまずなんて相手を好きになってしまったんだ。
自分自身の感情にそんな感想を抱いてしまうほど己を責め立てた。
いや、身分が違いすぎるだとか、同性同士であるとか、そこまで高い壁があるわけではないのだが、これはダメだと直感で悟った。
種族が違う。しかも仕事の相方だ。
仲間に恋仲の奴がいると仕事に差し障る人間なんて死ぬほど見てきた。
自分自身には縁のないことだと思っていたのに、なんてことだ。
自分の感情に折り合いが付かないまま数刻、いや、別段問題がないな、と自己完結した。
こいつとあたしが恋仲に?
ないない、ありえない。
女とみれば気軽に声を掛けて行くようなあいつだが、好みってものがあるだろう。
あたしをからかう為だけに、いとも簡単に可愛いなんて口に出すような奴が、こんな女を好きになるなんてありえない。
心配するだけ時間の無駄だ。
そもそもこれは本当に恋か?
あたしが感じたことはただひとつ。自分以外にいい顔をするな、という至極真っ当な感情だ。
だって仕事の相棒が、依頼者ならまだしもほかの人間にうつつを抜かすような態度をとったら誰でもイライラするだろう。
だからこれはそんな甘いもんじゃない。恋、なんて気持ちのいい物じゃない。
そうは思ってもこの感情の行き場は無くて。表には出せないこの思いは、なんて些細なことで膨らんでしまうんだろう。
もっと気軽にこの感情をぶつけられる様な女だったなら、違っていたのだろうに。
数刻先の未来すら、危ういような仕事をしているやつに、言われて嬉しいはずがない。
同じ仕事をしているあいつなら、そのことも頭にあるだろう。
永遠など誓えない相手に心を奪われている事実が自分自身を痛めつける。
好きになってどうする。そんな生ぬるい感情を抱いて、どうするんだ。
これから先も、長く仕事をしていく間柄というのに、なんて余計な感情を芽生えさせてしまったんだ。
「(好きになんて、ならなければよかった)」
どうせなら、もっと、遠い存在を愛しく思えばよかったのに。
それならきっと、離れてしまえば消滅するような感情だ。
そんな叶うことのないむなしい願いをかき消すようにマントの襟元をぎゅっと握りしめた。
「お前はどんな女がタイプなんだ」
脈絡もなく飛んできたスツルム殿の問いかけに、僕の時が一瞬止まった。
周りの騒がしさも耳に入ってこないくらいの静寂が僕を包んでいたのではないだろうか。
なぜ、今、僕は想い人にそんな質問をされているのだろうか。
今日のスツルム殿は調子がすこぶるよかった記憶がある。
お疲れさまを兼ねて入ったレストランが当たりだったことも反映したのか、美味しいごはんにお酒もぐいぐい進んでいた。
そのことから察するに、今は機嫌がいいのだろう。
というか、そんな話さっきまで一つも出ていなかったことを考えると、少し酔っているのかもしれない。
いつもの彼女ならそんなことはまず聞いてこない。
むしろ食事中は喋らないことが多いくらいなのだ。
いくら機嫌がいいと言っても、どういう風の吹き回しだろう。
何か引き金があったのだろうという推測くらいはできるが、思い当たる節はない。
どうやって答えようかと悩みながら、僕はフォークに刺していたカルパッチョを一切れ口に入れた。
「…なになに~?珍しいね、スツルム殿」
「…別に、なんとなく思っただけだ。忘れろ」
ちょっと茶化すように聞けば、それ以上は深く突っ込んでこない。すぐ引っ込めるあたりが彼女の美点だ。
でも、僕としてはもう少し踏み込んでほしいものだ。そうすれば、僕だってもっともっと踏み出せたのかもしれないというのに。
――君だよ、と言えたらどんなに楽になれるだろうか。
スツルム殿を好きになってから、何度も考えてきたことだ。
それとなくアピールはしてきたけれど、響いていないことは薄々理解している。
鈍感な彼女に伝わるように言わない自分がいけないとわかってはいても、寂しいものだ。
だって、僕はまだ君と過ごし日々を失くしたくない。
壊れてしまうくらいなら、まだ踏み出すべきじゃないんだろう。
それなのに、なんで余計なことが思いついてしまうのだろう。
「逆にスツルム殿ってどんな男性がタイプ~?好きな人とかいないの?」
上ずりそうな声を抑えて、あくまでも平常心を装って問いかけた。
ポーカーフェイスならお手の物だと思っている僕だけど、さすがにこの質問は緊張する。
一字一句聞き逃してはいけない、と全神経を耳に集中させた。
でも、答えなんてわかりきっているのだ。
『馬鹿らしい』とか『興味ない』とか、その類のものじゃないかということくらい僕だってわかっている。
それなのに、なんて事を聞いてしまったんだと自分を責めた。
「……いる」
「……は?」
「気になる奴くらい…いる」
―――呟いたスツルム殿は、それはそれはとても愛らしくって、相手の男が死ぬほど憎らしかった。
食器にフォークが、かちゃんとぶつかる。その音が自分の中でやけに響き渡った。予想外の返答に手元に力が入りすぎてしまったみたい。
恥ずかしそうに目線を外す様子も、言った後にもごもごと口ごもる様子も、それを見せないようにお酒を飲み干す姿も、あぁ全部が愛おしい。
そんな様子を目に焼き付けながらも、自分の頭は混乱度が増していく。
上手く言葉が出てこない。何か反応をしろ、と思っても、一つしかも出てこない。
『―――それはどこのどいつ?』
そんなこと聞けるはずもない僕は静かに黙り込むしかなかった。
「でも、伝える権利なんてないと思ってる」
何も言えずにいる僕を気にも留めず、スツルム殿はそう言った。
さっきまで少しだけ染めていた頬は元通りになって何事もなかったかのように口にご飯を運んでいる。
「え~なんでさ」
「あたしは傭兵だからな」
「別に傭兵だって関係ないじゃない~」
「……お前には関係なくてもあたしにはある。ごちそうさま!」
「えっあっ待ってスツルム殿!」
話は終わりだ、と言わんばかりの勢いで店から出ていくスツルム殿を、慌てて追いかける支度をする。
残りのカルパッチョを放り込みつつお金をテーブルに無造作に置いて席を立つと、店員さんの「ありがとうございました」も待たずに僕も飛び出した。
スツルム殿と僕の歩幅は結構違う。走ってしまわれていたら見失っていたな、と思ったが小柄な彼女はそう遠くまで行っていなかった。
「も~スツルム殿!待ってってば!」
追い付いて手を伸ばし、手首を捕まえれば、やっと止まってくれる。
少し息を切らしている僕に、夜みたいな冷たい目線を浴びせる彼女だが、その目はどことなく熱さも持っていて、あ~怒ってるなって直感で感じ取った。
「僕なにか変なこと言った?」
「別に」
「絶対本心じゃないよねそれ!」
「お前は好きに恋人を作ればいいだろ!」
「なんで?なんでそういう話になったの?」
こんな夜道にこんな会話。きっと遠巻きに過ぎさっていく人々からはカップルの痴話げんかだと思われているだろう。
恋人同士、と思われるのはやぶさかではないが、もっといい感じの時に味わいたいものだ…。
ってそうじゃなくて!
なんで僕が恋人を作る話になるのか。
スツルム殿には、言われたくなかった。
僕が心に留めているのは彼女だけだっていうのに、なんでこんなにも彼女には届かないんだろう。
―――あぁそうか。なんでなんて疑問に思ってるのが間違いだ。
遠回りにアピールして、それで思いが伝わるなんて思ってる僕が間違いだった。
こんな軽々しく愛を伝えたところで、彼女は受け入れてくれないなんて考えて。
そんなこと誰にでも言う、そう思われて終わりなんて決めつけた僕がいけないんだ。
「スツルム殿だよ」
―――そうストレートに一言 鈍感な心に 投げつければよかったんだ
「僕のタイプ聞きたかったんでしょ。スツルム殿だよ」
飛んで行った言葉はちゃんとスツルム殿に届いたようで、目を見開いて驚いているスツルム殿は、何も言わずに呆けた顔で僕を見ている。
あぁちゃんと伝わってる。
僕の気持ち、ちゃんと届いた。
嫌そうな顔をされなくてよかった、と心の底から安堵した。
ここで怪訝そうな顔をされたら、きっと僕の心は立ち直れなかっただろう。
緊張の糸が少しだけ解けた僕は畳みかけるように続けた。
「好きな人がいるのはさっき聞いたけど…でも僕はっ……あっっつ!!」
「ちょっと、待て…!」
僕の言葉を遮るように、スツルム殿は勢いよく刀を水平に振るった。
刃から出た小さな炎をギリギリのところでよけたが、バランスを崩してそのまま尻餅をついてしまった。
待って欲しいのはわからなくもないけれど、その物騒な止め方はいかがなものかと僕は思う。
夜とはいえここは町中だ。放火魔だと思われる趣味はないのでちょっとは抑えてもらいたいものだ。
「好きに作ればいいとは言ったが、その…」
が、混乱している様子が一目でわかるスツルム殿を責める気も起きなかった。
あーあ本当に微塵もピンときてなかったんだ~、と思うと自分の中の色々なものが崩れたような気がした。
一息ついて立ち上がり、埃を掃ってから『ここじゃなんだから…』と手を取って歩き出す。
スツルム殿はついて来てくれないかもしれない…と思ったが、存外素直に従ってくれた。
背を向けているせいで、今どんな顔をしているのかわからないのが、怖い。
頭の中は冷え切っているのに、握っている手がとてつもなく熱く感じる。まるで火傷しそうなくらいだ。
普段だって冗談めかして繋ぐこともあるっていうのに、なんでこんなにも熱いんだ。
離してしまいたい衝動にかられつつも、握る手を強める。離しちゃダメ、絶対にダメだ。
数分歩いた先に、小さな広場があるのは覚えていた。
昼間の活気は、夜になると静まり返ることも容易に想像できる。
案の定人っ子一人おらず、住宅街からも少し離れていることを考えると、話をするには丁度いいだろう。
二人掛けのベンチに近づき、ハンカチを広げてどうぞとエスコートすると、戸惑いながらも座ってくれる。
その隣に僕も座ると、少しだけ体を縮められた。そんなに警戒するなんて、男扱いされていることを嬉しく思いつつも、寂しくも感じる。
なんて切り出そうかと悩んでいると、スツルム殿が不満そうに呟いた。
「…………お前、女なら本当に誰でもいいんだな」
「えー!?さっきの聞いてそんなこと言う!?」
「…………じゃあ趣味悪いな」
「それ自分のこと好きだって告白した人に言う事じゃないでしょ!」
「気になる奴がいるって言った直後の人間に…告白するような奴に言われたくない」
「そ、れは………ごめんなさい」
さっき縮こまってしまったスツルム殿は、すっかり体の緊張が解けたみたいだった。
いつもの調子のスツルム殿にほっとしつつも、繰り出される言葉の攻撃力の高さに項垂れてしまう。
女の子なら誰でもいいだなんて、思ってるわけない。
「……あたしも、言い過ぎた」
ぽつりと紡がれた謝罪が、耳に届く。
バツが悪そうにそっぽを向いたスツルム殿は、顔を見せてはいないが、隠しきれていない耳がほんのり赤くなっているのが見えた。
あぁ、そんな反応しちゃダメだって…!!自分の中のムズムズする心が止められない。動き出した好奇心は、止められるわけがなかった。
「…ねぇスツルム殿の好きな人ってどんな人?」
「……別に好きとはいってない。気になるだけだ」
「いやいや、さっきの流れだと好きも同然でしょ~」
「………言いたくない」
「僕、ライバルになるわけだし知りたいな~」
「……それ本気で言ってるのか」
不機嫌そうなその声に、『何故』という疑問が浮かぶ。
いや、喋りたくないと言われることは予想通りではあったけど、馬鹿を見るような目線を向けられるのはいただけない。
僕はそんなに変なことを言っているだろうか?
だって、僕はそのお相手に向いている熱を僕に向けてもらうように頑張らないといけないわけで。
それにあたり、敵を知っておくのは間違えではないと思う。
どこで出会ったとか、どういう人となりなのか、とか興味を持ってもしかたないことだろう。
教えて欲しいな~という目線を送り続けると、観念してくれたのかため息を一つ吐いて教えてくれた。
「……お喋りで……女には誰にでも優しくて……嘘つきな奴」
「え゛…」
想像もしなかった返答に、思わず変な声が出てしまった。
えっ、嘘。嘘でしょ。絶対違うじゃん。
スツルム殿誰かに騙されてない?なんか弱みでも握られてるの?
あー惚れた弱みっていうのはあるかもしれないけど、それにしても、そんな遊び人みたいな奴が好き?
いくらなんでも嘘でしょ。でもそんな無駄な嘘をつくような人じゃないことは今まで過ごした年月のなかで分かっている。だから、これは本当なんだろう。
「あ~…ん~…その……スツルム殿、そういうのがタイプなんだ、ね?」
「全く」
平常心…平常心…と心を落ち着かせながら聞いたわりに、即答で否定をされると、ますます混乱してくる。念の為の確認が、全然意味をなさなかったじゃないか。
スツルム殿の好きな人は、全否定するくらいタイプではないらしい。
「じゃあなんで好きなのさ!ねぇねぇそれなら僕のほうが良くない?絶対僕のほうがいいよ?」
「……おっ…まえな…!」
「いでぇ!?な、なに!?」
ここぞとばかりに自分を売り込んでいると、スツルム殿の拳が僕の横腹にヒットした。
痛い。剣で刺される時も痛いが、油断していた分いつもより痛く感じる。
これはこれでスツルム殿に構ってもらえるからいいか、と許容していた僕ですら痛いのだから、スツルム殿の好きな人はきっと許せないくらい痛いだろう。
ほーらやっぱり僕のほうがいいと思う。
悶絶する僕をよそに、スツルム殿はお構いなしに僕の胸元を掴んで引き寄せてきた。
距離の近さに驚く暇もなく、僕に向かって怒鳴りつける。
「なんであそこまで言ってわからないんだっ!」
「へ?」
「あんな条件に当てはまる奴なんてお前しかいないだろ!」
スツルム殿の声が、頭の中で反芻する。
すべてを飲み込むまでにどのくらいの時間を使ったのだろう。
理解した瞬間に顔が熱を帯びていくのが分かる。
今の僕は、スツルム殿の髪色のごとく赤くなっているだろう。
スツルム殿は 僕が 好き。
これは相棒、としての意味ではないことくらい、ここまで言われれば僕だって理解する。
なんで どうして 嬉しい が入り混じって、うまく言葉が出てこない。
いい歳して泣きそうだ。でもそれじゃ駄目だと言い聞かせて、必死に言葉を紡いだ。
「えっ…じゃ、じゃあ…スツルム殿…」
心臓の鼓動が早くなる。
まさかこんな日が訪れるなんて思わなかった。
君と僕の心が、繋がる日が来るなんて思わなかったんだ。
「僕の恋人に…なってくれませんかっ」
「…無理だ」
意を決した告白は、あっけなく砕かれてしまった。
さっきまでの熱さはどうしたのだろうと思うくらい、僕の顔は顔面蒼白だろう。
ここまでのフラグクラッシャーを今まで見たことあるだろうか。
いやいやいや絶対OK貰えるところだったよね。
僕達は両想いのはずだ。それなのに、なんで君はそんな悲しい顔をしているんだろう。
「なぁんで~!なんでなんでスツルム殿!」
あくまでも明るく駄々をこねると、スツルム殿は服を掴んでいた手を離して、また隣に座りなおす。
さっきと同じようなため息を一つ吐いて、まるで子供に言い聞かせるように喋りだした。
「…いつ死ぬかわからない、死ななくても片足がなくなるとか、目を失う可能性があるとか……あたしたちの仕事はそういうものだぞ。一瞬の気の迷いが命取りになる…それくらいわかるだろ」
スツルム殿の目は真剣だ。真面目な彼女らしいまっすぐな瞳をしていた。
「それなのに、愛なんて囁き合ってどうするんだっ…」
そんな瞳が曇るくらい、苦しそうな、悲しそうな、今まで見たことない表情のスツルム殿がそこにはいた。
人殺しを頼まれた時だって、そんな顔一つせずに淡々と仕事をこなしていた彼女が、そんな弱い姿を見せるだなんて思わなかった。
…でもスツルム殿は難しく考えすぎだ。
人生は一度きりなのだから、もっと楽しく生きればいいのに。
もっともっと嬉しいことも集めて生きればいいのに。
スツルム殿の手に、僕の手を重ねると小さな体がびくりと跳ねた。
そのまま包むように握るとさっきここに連れてきた時のような熱さがまだそこにはあった。
この小さくて熱い手で、あんな力強い剣術を繰り出すんだから不思議だ。
触れていると、どんどん僕の中の希望が膨らんで、あふれ出てしまった。
「ねぇスツルム殿、一つ約束をしない?」
「は?なんだいきなり」
「傭兵でいる間は…仕事のパートナーでいる間は別に何も考えなくていいから。
だから、傭兵人生が終わった後は、残りの人生、僕と一緒にいることを考えてくれない?」
どんな君でも傍にいたい。どんな僕でも傍にいて欲しい。だからこその途方もないお願い。
あぁ、きっと僕は今猛烈に情けない顔をしているだろう。
でも、君以上の人なんてきっともう現れない。だから、どうか、この我儘だけは叶えてもらえないだろうか。
「お前それ…わかって言ってるのか…」
わかってないわけじゃないじゃないか。
もしかしたら、僕の願いは届かないかもと思ったが、スツルム殿はちゃんとわかってくれたみたいだ。
じっと目を見てこくりと一回頷くと、唇がキュッと結ばれた。
何か言いたいことを飲み込むような、そんな仕草。言いたいことがあれば言ってくれて構わないのに。
『馬鹿』でもなんでも、ちゃんと聞き入れるから。
その上で、僕は何度でも君に同じことを伝えるよ。
「……もし…もしも……その時が来て、あたしもお前も気持ちが変わってなければな」
スツルム殿の返答に、思わず笑みが零れてしまった。
あぁ、泣きそうだ。まだまだ僕の『恋』は続けられそうだ。
最早これは『愛』のような気もするけれど、君を想う気持ちはどっちでも構わない。
名前なんてなんでもいいんだ。ただ、スツルム殿と一緒にいられるなら。
「本当?僕絶対変わらない自信あるよ?」
「……何なんだその念押しは」
「諦めないからねって宣告」
そう言った僕に向けた君の表情は、僕の胸が貫かれた時と同じで、惚れ直すとはこのことだろう。
「…馬鹿だなお前は」
あたしもだけどな、と付け足したスツルム殿はどことなく嬉しそうだった。
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