小話41
古戦場お疲れ様でした(2022水)
「機嫌直してよスツルム殿~」
「………」
《困っているのか嬉しいのかどっちかにしろ》
目の前で広げられる茶番と、台詞に反して
弾む声色に、ため息を一つ吐きながら
心の中でツッコミを入れる。
決して口に出したりはしない。
だって絶っっっ対に面倒なことになるから。
夜が更けた艇の食堂には、
己を含めて3人しかいなかった。
良い子は既にベッドと仲良くしているだろう。
本当なら僕だって早くルリアやビィと寝たい。
普段だと大人たちが酒盛りをしている事もあるが、
今日は生憎開催していないらしい。
……いや、別に誰もいなくても問題はない。
仕事終わりに仲良く食事を……という
雰囲気であれば問題はなかったのだ。
自分の頭を悩ませている原因は、今回の仕事で
協力を仰いだ疾風怒濤の傭兵コンビである
スツルムとドランクだ。
普段は息の合ったコンビネーションを見せて
くれる彼らだけど、今の空気はちょっと違う。
スツルムは眉間に皺を寄せてむくれた表情で
淡々と肉の咀嚼を続けていて、
ドランクは困った表情を浮かべながらも、
声から嬉しそうな雰囲気を漂わせている。
原因は解っている。
仕事中にちょっとだけトラブルに見舞われた。
その場に居合わせていたから、
よーくわかっている。
だからこそ、この状況を作り出されて
しまっているのだろう。
対面にいるピエロのようなこの男の意図が、
ほんの少しだけわかっているだけに、
ため息しか出てこない。
はぁ~~面倒ごとは疲労している体に毒過ぎる。
体力勝負の仕事を終えたばかりだというのに、
次の仕事の確認をしなくてはいけないと
告げられた僕の気持ちをどうか理解して欲しい。
そんな思いなど知るよしもないドランクは、
誰からも返事を貰えないにも関わらず、
お喋りを止めることはなかった。
「いやさぁ、あれは不可抗力だって!」
「…………」
まぁ、その言い分は解らなくもない。
立ち向かっていた星晶獣は、手数が多く
全体的に攻撃を仕掛けてくるから避けにくかった。
でも、相手が悪かったよね。
可愛い犬とか猫ならよかったけれど、
豊満な体の艶かしいお姉さん相手に
魅了浴びされちゃったんだから。
しかもスツルムの目の前で。
ドランク、大きいお胸好きだもんね。
煩い囀りを無視して、大量のステーキを
黙々と片付けている相棒を見ればわかるよ。
好きなのは胸だけじゃないのを、
鈍感な相棒はわかっていなさそうだろうけど、
空気のように存在感を無くしたいから、
これも口には出さない。
「星晶獣の力の前だと、やっぱり仕方ない事ってあるじゃない?」
「………」
「ねぇねぇ~団長さんもそう思わない?」
やめてやめて、こっちに話を振らないで。
ほら、スツルムの手元が雑になってきてるから、
自分の相棒とだけ向き合いなよ。
今、僕の目は難しい単語の羅列を、
口はチキンソテーを咀嚼する作業で忙しいの。
手は紙を捲ったり口にご飯を運ぶことでもっと忙しいんだから!
いやさ、こっちの都合で手伝ってもらった時の
出来事だから、ほんのちょっとくらい
罪悪感はあるよ?
だけど、それを払拭するほどの
にやけ顔がよくないよ。
この状況を楽しんでることが
丸わかりな態度をまずやめろ。
そんなんだからスツルムの機嫌が
急降下するんじゃん!
しかもこの状況を誰かに見せびらかしたくて
仕方ないから、同席するように仕向けたでしょ。
惚気るのは二人だけの時でいいじゃん~~~。
他人を巻き込むことなくない!?
キャパシティの限界が近い僕は、
大きなため息と共に二人に向かって叫ぶ。
「も~~痴話喧嘩ならよそでやって!」
それを聞いた複雑な表情のスツルムと、
口角を思いっきり上げて笑うドランクに、
もう一度深く息を吐いた――。
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