恋の彼方で会いましょう

*両片思い/甘め 

 傭兵帖のイベント開催前に書いてます。


自分の気持ちを伝えてしまって、この関係が壊れるくらいなら今のままを選んだ(けどちょくちょく表に出してくる)ドランク

自分の気持ちにも相手の気持ちにも気が付いてしまったけれど自分から踏み出せないスツルム殿(自分からは言い出すのは恥ずかしい)

のお話です。

※初心者騎空士がドラスツがストライク過ぎて思わず書いたものなので生温かい目でお読みください※



―――――調子に乗った。

言葉通り、調子に乗った。

いや、昨日は調子がすこぶるよくて、

そのとおり調子に乗った。

だって、仕事がすこぶる上手くいって、

100点をつけてもいいくらいだったし、

依頼人からの報酬はその分色を付けてもらって

懐もだいぶ潤った。

それで調子に乗らないでいつ調子に乗るというのだろうか。


いや、そこで調子に乗ったのはどうでもいいし、

本当にそんなことはどうでもよくて、その後が問題だった。

報酬が多く貰えた分、その日の夕食は

すこーし高めのワインを楽しんだ記憶がある。

あぁ、ちなみに相方はあまり飲まなかった分、

いいお肉を食べたんだからお相子様だ。

そんなこともどうでもよくて、

そのワインが思いのほか自分に合っていて、

ついつい飲みすぎてしまったところも

調子に乗っていたんだろう。


次の日、目が覚めた時にはベッドで寝ていた。

昨日の記憶がぼんやりしていて、

いつの間にか宿に戻ってきたんだなぁ

なんてのんきなこと思ってしまった。

今日は特に何もないし、もうひと眠りしようかと思ったが、違和感を感じてぴたっと固まってしまった。


何も毛布を掛けていない。

だけれど温かさに包まれている。

それもそのはずだろう。理由は僕の腕の中だ。


自分の目の前に広がっていたのは、

見慣れた情熱の色。

炎みたいに赤い髪に見覚えがないわけが

ないのだが、念の為ちらりと横目で確認すると、

ドラフ特有の角がひょこりと生えているのが確認できる。

回している腕に伝わる感覚から規則正しい呼吸を感じて、安堵とともに冷や汗も止まらない。


相方―スツルム殿が僕の腕の中で寝ている。多分。

いやいや、絶対だけれど僕はまだ混乱しているのだ。


これは……彼女が腕の中で寝ている、というよりかは僕が彼女を抱きしめて寝た、が正しい。

だってぎゅーっと僕の腕は彼女を抱きしめているんだ、現在進行形で。

その感触が、名残惜しくはあるけれども、腕を緩めて、起こさないようにそっと腕を抜いていく。

無事に抜けられた僕は、とりあえず何事もなかったかのように足元でぐちゃぐちゃになっていた毛布をそっと掛けて、手を離した。

起こしてはいけない。

まだ、起きられたら困る。

物音を極力立てないように、ベッドから降り、辺りを見回すと、すぐ隣にもう一つベッドがあって、

なんでもう一つあるんだよ、

いや当たり前だよね、

今回の宿はツインルームなのだから

と自分で自分に突っ込みを入れた。

そこに身を任せると、ぎしりと鳴ってしまった微かな音にすら敏感に耳が震える。

ゆっくりゆっくり座り込み、ベッドが僕を支えてくれたところで、やっと頭を抱えれた。


それと同時に、昨夜の記憶が一気に駆け巡り、

頭の中のぐちゃぐちゃに拍車をかけていく。


いやいやいやいや…

待って……まっっっって


さっきはぼんやりとしていたが、

いくら調子に乗って飲みすぎたからって

流石に記憶は無くしていない。

むしろ無くしてもらったほうが僕のためだったのだけれど、そんなこと言っても時すでに遅し。


いい気分でお店を出て、宿に戻ったところまでは問題ないのだ。

お酒のせいで気が大きくなっていた僕は、

さっさと寝ようとするスツルム殿になんだか寂しさを感じてしまったのだ。

いい歳なんだから寂しがってないで寝てくれと今なら思う。

ほんともう遅いんだけど!

そこで、寝ようとしたスツルム殿に思いきり飛び込んで、そのまま白いシーツにダイブした。


僅かな沈黙ののち、嫌そうな声で「離せ」と抗議が聞こえてくる。

その後、僕は、スツルム殿に、―――――。


思わず叫びたくなってしまった。

かっこ悪い。

とてもかっこ悪い。

いつもスツルム殿の前だとふざけてしまってか

っこいいとは思われていないかもしれないけれど、それにしてもかっこ悪い。


しかも、女の子相手に後ろから飛びつくなんて、

何を考えていたんだろう。

いや、酔っ払いだからなにも考えていなかったんだろう。

だからあんな行動をしてしまったんだろう。


でも、酔っぱらった僕はなんとも素直だなぁ。

素面では到底できないであろうことをしてしまうのだから。

手の中にあった温もりも、

気持ちを吐露した瞬間の雰囲気も、

全部全部羨ましいなんて

過去の自分に嫉妬すらしてしまう。

もうちょっと正常なままで味わいたかったものだ。


「んっ……」


自己嫌悪の真っただ中、微かな声にまた僕の耳がピクリと動く。

シーツのこすれる音のほうに目を向ければ、そこには当然ながらスツルム殿が体を起こしていた。

僕のほうはまだ心の準備が整っていない。

だけれど、努めていつも通りに振舞わなくては。

そんな僕の心配は無駄だったみたいだった。


「お、おはようスツルム殿~」

「……おはよう」


いつものスツルム殿だった。

ぼーっとしつつもガシガシと髪を適当に

整えながら、ふわぁっとあくびを一つ。


その様子に正直なところ、ほっとした。

昨日抱きしめてしまったことも、

吐いた弱音も、

もしかしたら忘れてしまっているのかもしれない。

胸の奥が、少しだけチクリと傷んだ気がしたけれど、押し込めて。

やはり僕も、いつも通りに振舞わなくては。


「昨日はごめんね?ちょーっと飲みすぎちゃった」

「全くだ。今日仕事がないからいいものの…気を付けろ」

「うんうんほぉんと良かった!…それでね、昨日僕なんか変なことしちゃったりしてる?いや~なぁんか覚えてなくってさっ!」


昨日は何もなかった。

僕は何も覚えてない。

そうしたほうが、僕のためでもスツルム殿のためでもある。

反省して、またいつも通りの日常に戻ればいいのだ。

僕の決断とは裏腹に、それを切り裂くようにスツルム殿の凛とした声が響く。


「……いいのか」

「へ?」

「……本当に忘れていいのか」


スツルム殿のまっすぐな瞳に、息を飲んだ。


彼女の剣術のように鋭い目線。

予想外の返答に自分の鼓動が早くなっていく。

うるさい、少しだけ静かにしてほしい。


「な…何言ってるのスツルム殿~!覚えてないけど酔っぱらいの戯言だと思うんだよね~?も~本気にしないでっ!」

「……その胡散臭い作り笑いやめろ。…お前はそれで本当に後悔しないのか」


僕が覚えてないって嘘はバレてしまっているんだなぁ。

いつもはどうしてこんなことでっていう事でも

騙されてくれるのに、なんでこんな時に限って

言った通りに受け取ってくれないんだ。

なんで、スツルム殿のほうが苦しそうなんだ。

イラつきの混じるその声に、スツルム殿はやっぱりいつでもまっすぐな人だなぁ、なんて改めて思う。


そのまっすぐさに、目が離せなくなって、気が付いたら、心の真ん中にはいつでも彼女がいた。


「スツルム殿こそ、後悔しない?」

「………すでに後悔し始めた。だから、」

「…でもごめんね?僕もう止まってあげられないや」


忘れる、と言われてしまう前に、真正面から彼女を抱きしめる。

少しだけよろめいたスツルム殿だったけれど、

倒れこむことはなかった。

流石に押し倒す形になるのは気が引けたから助かるな、なんてほっとした。

素面でも一応頑張れるじゃないか僕。

心臓は今にも破裂しそうなくらいにうるさいけれど。

もしかしたらこの音が、今彼女の頭の中で響き渡っているかもしれない。

恥ずかしい。

でも離したらそこまでだ。

臆病な僕にスツルム殿がくれたチャンスを

逃してはいけない気がして、頭では心配しつつも

体は離れることを許しはしなかった。


「好き、好きです。スツルム殿が僕の事どう思ってなくても、僕はずっと、スツルム殿の隣に居たい」


言ってしまった。

口に出してしまったら、色々なものが崩れ去ってしまう気がしていつも飲み込んでいた感情を――。

僕の体の中から溢れかえってしまうくらい、何度も飲み込んだ。

この感情は、きっと邪魔なものだろうと決めつけた。

彼女はきっと、浮ついた関係など望んでいないだろう。

だったら僕は、一秒でも長く彼女のそばにいるために、この感情を表に出す事はやめようと、

奥底にしまい込んだ。

紡いでしまえば、なんて気持ちいい言葉なんだろう。

一度受け入れてしまった言葉はゆっくりと僕の中に吸収されて、駆け巡って、流れていく。


「……そうか」


僕の耳に、スツルム殿の落ち着いたような声が響く。いつもと同じの声色にほっとした。

顔は見えないけれど、今すぐに拒絶されることはなさそうだ。

僕は、その次の言葉が向けられるのを待つけれど、そのままスツルム殿はだんまりしてしまった。


「…えっそれだけ!?そ、そうかってなに!?

もうちょっとなんかあるじゃん!

好きって言ってるんだよスツルム殿ぉ!?」


いくら普段無口なスツルム殿だからって一言だけはないだろう。

僕は、スツルム殿がああ言ってくれたから勇気を出して伝えたのに、そんな簡単な返しだけで済まされてしまうのだろうか。


声は穏やかだったけれど、やっぱり気持ち悪いと思われてしまったのだろうか。

剣の道一筋で生きてきた彼女だから、伝えるのが怖かった。

自分の感情に任せて伝えてしまって、

この関係が壊れてしまうのが怖かった。

だけれど、僕の背中を押したのは、

まぎれもなくスツルム殿だ。


どうしよう、と不安になって思わず体を離す。

軽蔑した目をしていたらという僕の不安は、

一瞬にして吹き飛んだ。

自身の髪と同じくらいまで頬を赤く染めているその姿に、思わず僕も固まってしまった。


「ううう、うるさい!」


見られたことに動揺したのか、はっとしたスツルム殿はおもいきり拳を僕の腹に打ち込んできた。

いつも刺されている剣の刺激とは違うその痛さに、思わず僕もベットに沈み込み悶絶する。


「昨日はそんなことまで言ってなかったから…まさか、そんな、直球で言われると…思ってなかった…」


確かに勢いで付け足してしまったなということに気が付いて少しだけ恥ずかしくなる。

あれだけ臆病になっていたのに勢いですべて伝えてしまった。

でも、そこまで言ってもいい雰囲気だったし、煽ってきたのはスツルム殿だから僕は悪くないと思う。


昨日あの時、僕は「ずっと傍にいさせて」くらいにしか言わなかった。

しかも言った直後に、あろうことかそのまま寝落ちした。

そこまで考えて、はたと気が付く。

そういえば刺されてなかったんだな、と。


いつも帯刀している剣は寝る前に脱いだマントと一緒にハンガーにかけられているから手元にない。

という観点で刺されないのは仕方ないにしても、いつもならその代わりに、さっきみたいに殴る事くらいはされる。

昨晩だって、叩き起こされてもいいくらいなのに無事に朝を迎えられた。

これは、自分の良い方向に取られてしまっていいのだろうか。


「ねぇスツルム殿?」

「なんだっ…」

「………そんな態度取られたら期待しちゃうよ?」


やっと痛みに慣れてきた頃に起き上がり、

首を傾げ覗き込むように問いかければ、

明らかに赤らみが顔に広がる。

思い切り動揺しているスツルム殿可愛いなぁと思いながら改めて考えたが、この反応は――――。


「き、期待ってなんの…」

「スツルム殿も僕の事好きなのかなって、思っちゃうよ?」


僕の都合のいい方向に、捉えることしかできない。


「っ……勝手にすればいいだろ」


目を反らした後、投げ捨てるように向けられた言葉に、胸が締め付けらた。

こんな乱暴な返しにさえ、一喜一憂してしまう。


嬉しい。

今僕は、きっと世界で一番幸せだ。

生きていてよかったとさせ思えるような幸福感で包まれている。


それと同時に、これは夢なんじゃないだろうかということさえ頭を過った。

こんな幸せなことが、現実でいいのだろうか。

そんなことを考えると手が震える。

いっぱいいっぱいの好きという気持ちを溢れ返させた僕は、臆病なのだ。


「ほんとにいいの?」

「はぁ?」

「僕の思うように受け取っていいの?」

「…自分で言い出しておいてなんなんだ」


僕のこの思いは、『恋』なんてものを通り越して、『愛』にまで進んでしまった重たいものだから。

スツルム殿の負担にはなりたくない。

スツルム殿の邪魔にもなりたくない。

でも、今の僕はそれを今まで通り全部ぜーんぶ抑えていられるほど我慢強くないから。

一度溢れだした気持ちをまた飲み込むことは難しそうだから。

だからずるいなぁと思いながらも聞いてしまうのだ。


「……僕…スツルム殿が嫌になっても離してあげられないかもよ?」

「今まで何年一緒にいると思ってるんだ。今更変わらないだろ」

「…所構わずくっつくし、それに…イチャイチャしたがってもいい?」

「そ、れは…嫌だが…………人に見られかねない時位は節度を持て」

「……二人きりだったらいいの?」

「…大体そんなことして何が楽しいっていうんだ」

「楽しいっていうか…その…スツルム殿が触れさせてくれると落ち着きそうというか…」

「は?」

「……い、嫌がられてないな~って判るから」


僕のその発言に、スツルム殿は大きなため息を1つ吐いた。

しつこくしすぎてしまったかもしれない。

でも僕にとっては重要だ。


スツルム殿は寡黙だ。

いろんな女の子を見てきたけど、思っていることが掴めないことも初めは多々あった。

今では彼女の雰囲気や表情の微かな変化に気が付いてはきたものの、

恋愛のこととなると見逃がしそうで。


だから、触れて、許されたい。

彼女の領域に踏み入ることを。


「さっきからなんなんだ、お前のそのなよなよした態度は。いつもは飄々とからかってくるくせに」

「うっ…」

「調子が狂うからいつも通りでいろ。…多少の接触くらいは許してやるから」

「ほんと…!?」


スツルム殿がそんなこと言ってくれるなんて思わなかったから、つい顔が緩んでしまう。

そんな僕を見て彼女は少し呆れ気味だったけれど、気にせずにスツルム殿に聞いてみた。


「ねぇねぇスツルム殿は言ってくれないの…?好きって」

「別にあたしが頼んで言ってもらったわけじゃないだろ」

「え~それはずるくなぁい?」

「……今またちょっと後悔した」

「えっ!?ご、ごめんね?ちょっとしつこかった?うんうん、わかった、無理強いしない」

「……あーもう」


また調子に乗ってしまった。

これからはちゃんと学習していかないと。

そんな慌てる僕を見て、スツルム殿はなんだか不満げな顔をして、

手を伸ばし耳をぐいっと引っ張ってきた。

痛いなんて抗議の声を上げる前に告げられた言葉に、僕はやっぱり頬が緩んでしまうのだった。


『嫌いじゃない』


―――――それは不器用な彼女の最大級の好きなんじゃないかと思う。

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